1.羽化を見込めぬ蛹

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 とある高等学校の裏手に、地元の住民から『赤王山』と呼ばれる山がある。  その由来は、秋になると、鮮やかな紅葉が山一面面を真っ赤に染め上げる事と、はるか昔に、どこかの王族がこの山に住んでいたとかいないとか。そんな本当か嘘かも分からない、いい加減な噂から名付けられたらしい。  まあ多分……住んでなかったんじゃねーの? と長い黒髪の少女・向百合は、その山の中腹ほどの見晴らしの良い場所に立ち、ぼんやりと考える。  その右手には、全長が二メートルにも近い長槍が握られていた。 「……なーんだーかなー」  あーあ、と溜め息を吐いて、向はおもむろに槍を横に振るう。  それによって彼女の槍―――神玩具・コルセスカから、無数の火の粉が舞い上がる。コルセスカに宿る炎の力の余波だ。  バチバチッ、と音を立てて散っていく火の粉だったが、危うく一本の大木に着火しそうになる。―――と言うのに、向本人は気にも止めない。  そして、同じセリフをもう一度繰り返す。 「なーんだーかなー、ホントーにさー……もーっ!」  何と言うか……彼女はご機嫌ななめだった。八つ当たりで山火事を起こしかねないレベルに。
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