57人が本棚に入れています
本棚に追加
とある高等学校の裏手に、地元の住民から『赤王山』と呼ばれる山がある。
その由来は、秋になると、鮮やかな紅葉が山一面面を真っ赤に染め上げる事と、はるか昔に、どこかの王族がこの山に住んでいたとかいないとか。そんな本当か嘘かも分からない、いい加減な噂から名付けられたらしい。
まあ多分……住んでなかったんじゃねーの? と長い黒髪の少女・向百合は、その山の中腹ほどの見晴らしの良い場所に立ち、ぼんやりと考える。
その右手には、全長が二メートルにも近い長槍が握られていた。
「……なーんだーかなー」
あーあ、と溜め息を吐いて、向はおもむろに槍を横に振るう。
それによって彼女の槍―――神玩具・コルセスカから、無数の火の粉が舞い上がる。コルセスカに宿る炎の力の余波だ。
バチバチッ、と音を立てて散っていく火の粉だったが、危うく一本の大木に着火しそうになる。―――と言うのに、向本人は気にも止めない。
そして、同じセリフをもう一度繰り返す。
「なーんだーかなー、ホントーにさー……もーっ!」
何と言うか……彼女はご機嫌ななめだった。八つ当たりで山火事を起こしかねないレベルに。
最初のコメントを投稿しよう!