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「――――――」
…今、少年は何と言ったのか?
神谷は自分が発した言葉をフラッシュバックさせる。
―相手を如何に見抜き
自分を信頼させるか―
…なんて事だ――。
少年の言葉。
―ありがとう、貴方は思った通りの人間だったよ―
「クックックッ…ハーッハッハッハ…」
神谷は突然狂ったように笑いはじめる。
こんな笑い方をしたのは初めての事だった。
身体が、全身が、ジワジワと言いようのない悪寒が蝕んでいく。と、同時に震えが止まらない。
少年は最初からこの定義に充てていたのだ、――この私を。
私を一度も騙されることなく完全なる騙す側の人間と見抜き、自分を騙されている側と信頼させた。
そうして私を騙したのだ。
「さすが、神谷さん…理解したようだね。そう、僕が知りたかったのは人を騙す人はどんな人物…つまり人を騙す人は『騙されない人間』なのか。理解したのは騙す人もやはり『騙される人間』ということ」
少年は唇の端を歪め妖しく微笑い神谷を見つめる。
「まさか私を騙すとは―…君はまた探すのですか?決して騙されない人間を」
「ええ…。僕は探しますよ、見つかるまで……永遠にね」
重厚な絨毯をまるで浮いているかのごとく歩き扉に向かっていく。
「君は一体…」
最後に少年が振り向き、ゆっくりと唇が動く。
「――――――」
ニヤリと醜く歪めたその表情は神谷が今まで見たどの生き物より美しかった。
――あれが騙されるという感覚か…。
私は、もう以前と同じように人を騙す事が出来ないだろう…。
騙されるという事を知ってしまったのだ。
つまり、人を騙すことを生業としていた私は死んでしまった。
私が出会ったのは『神』か『悪魔』か―――。
そして気になるのは『彼』の最後の言葉。
―ダマサレルホウガワルイ―
彼の言った事は真実?
それとも―――?
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