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長い、長い、果てが見えない暗闇の中。
泥だらけのズボンの裾にも気がいかない侭、走る。
水溜まりに踏み込んでいるのかバシャバシャという水音が目立っていた。
空気を肺に送り込み息を吐き出す。
それを繰り返すことで荒くなる呼吸を整えることができた。
一筋の光さえ、自分を照らす光さえ差してくれない。
どこに向かって走っているのか、何から逃げているのか、分からなくなっていた。
突如、足が何かにとられ派手に転んでしまった。
追い掛けてくる足音はどんどん近付いてくる。
両手で上半身を支え起き上がろうとしたら、急に頭にピリッと痛みが走った。
いつの間にかあの人は俺の背後にいて毟るくらいの勢いで髪を引っ張ってきた。
嫌でも顔が上向けられその人の顔が微かに見えた。
「なんで逃げるの?桜井」
「……っじぇん…」
ひゅん、と風を裂くような音がした。
一瞬のことで頭がついてこれてなかったようだ。
でも、鼻先を擦るコンクリートを間近に見ればああ、とようやく気が付いた。
コンクリートに溜まった水溜まりの中に俺の顔をぶつけられたのだ。
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