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先に呼び出したのはあいつの方なのに、その本人が遅れてどうするんだ。
時計台の下、秋の冷たい風が俺の頬を撫でる。
寒い。
大体どうしてこんな真夜中に外に出なくちゃならないんだよ。
息を吐いたら、それは白かった。
直ぐに消えてしまったけど。「だーれだ?」
背中に人の体温を感じる。
真っ暗闇の視界。
何も見えないけど、声で分かる。
「…鈴木」
小さく呟く。
そしたら目の前は元の景色に戻っていた。
「ありゃ、さくちゃん知ってたの」
隣に着いた鈴木は残念そうな面持ち。
「分かるよ声聞けば」
瞼を擦ると手の体温が下がっていることが分かった。
手だけでも、とポケットに埋め込む。
「ごめんね」
「ん?」
「待たせちゃって」
「…うん」
壁にもたれ掛かるようにして俯いた。
伏し目がちになる。
不意に、ポケットに埋まった手が温かいものに包まれた。
何…?
視線をそちらにやる。
ポケットに入るもう一つの手。
「寒いね…桜井」
「……うん」
何だよ。
何も言わずにこんな、恥かしいことするなよ。
視線を鈴木に上げる。
笑ってる横顔。
俺だけなの?
寒いのにこんなに、
体が熱いの。
「さって、真夜中デートに行きますか♪」
ズボッ、とポケットから姿を表したのは繋がるお互いの手。
鈴木は俺の顔を見つめながら指を絡めてきた。
恋人繋ぎ。
「鈴木…」
「ん?」
「どこ行くの?」
「んー…ま、どこでも?」
「曖昧に返すなよ…って、ちょっと!」
突然踵を返す鈴木。
俺も手を引かれて、走った。
二人で駆ける東京の町が、いつもより広く感じた。
終わり。
なんすかこれ←
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