J'ai bessoin de toi

2/9
前へ
/223ページ
次へ
「お帰り、嗣生(つぐお)」 扉を開けたのは赤毛の男だった。 気のせいか、一瞬こっちを見たような。 まさか、な。 ドアから俺の立っている植え込みまで50メートル近く離れてる上に、完璧に葉陰に隠れてる。絶対に俺の姿は見えない筈だ。 双眼鏡でも覗かない限り無理。 そう。俺は、双眼鏡を持っている。 実は先生の鞄に隠しマイクも取り付けてある。会話もばっちり、丸聞こえだ。 これはもう、立派なストーカーだよな。 「寂しかったよ」 男は櫟に抱き付いた。 再度、ちらりと視線を此方に寄越した。 明らかに、わざとだ。 俺が見えてるのか? こんなに離れた暗がりで完璧に隠れてるのに?
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加