邂逅

3/6
前へ
/223ページ
次へ
どうした事か、予期していた床がいつまでたっても顔に近付いてこない。 恐る恐る(まぶた)を開けると、目の前はスーツの胸元で塞がれていた。 男が信じられない素早さで、僕の胴を支えていたのだ。 「オレは何時までこうしてればいい?」 僕の体はくるりと抱き起こされて、気づけば眼前に 眉をきゅっとあげた悪戯(いたずら)っぽい顔をした男が見つめている。 「も、もう、大丈夫です」 男の分厚い胸を(てのひら)でゆっくりと押し戻し、体勢を立て直す。 ようやく自分の足で(しっか)り立つ事ができた僕は、安堵(あんど)溜息(ためいき)()いた。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加