邂逅

5/6
前へ
/223ページ
次へ
「あの、助けて下さって、本当、ありがとうございました」 少し吃ってしまう。 「いいさ。アンタとは、これから(いや)でも関わっていくんだから」 低く響く男の言葉は、どこか楽しげにか聞こえる。 「それって、どういう意味ですか?」 僕の質問に男は破顔した。 それは、ぱっ、と大輪の花が咲いたような笑顔で。 男性を花に喩えるのもなんだけど、赤いダリアとかガーベラとかそういう華やかな花のような笑顔だった。 「あの学校の先生なんだろう?」 男が視線で示した先には、緑の葉に見え隠れする学校の時計塔がある。 「実は俺も」 更に歯を剥き出して笑った顔は、先ほどの笑顔とは裏腹に酷く獰猛(どうもう)に見えた。 大きな目と鼻と口。そして、発達した犬歯。 まるで『赤頭巾にでてくる狼』だ。 『おばあちゃん、どうしておばあちゃんのおくちはそんなにおおきいの?』 赤頭巾の台詞が頭に浮かぶ。 昔、祖母が寝る前に読んでくれた絵本の狼の口は、とても大きかった。 『気を付けなさい。誰が見ているかわからないんだから』 祖母は、小さい僕に良く言っていた。 『決して襤褸(ボロ)を出してはいけないよ』 何を考えてるんだ、僕は。 目の前の事実に集中しろ。 ボロどころか、とんでもなく目立ってるじゃないか。 「日本語、お上手ですね」 動揺を隠して、なんとか会話を続ける。 「こう見えても祖父が日本人だからね。それに語学が専門なんだ」 「どちらからいらしたんですか?」 「ウェールズだよ」     image=488463121.jpg
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加