教室

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「先生、今日電車のドアに(はさ)まれてたでしょ」 良く通る張りのある若い声が思いがけない程近くから鼓膜を揺らした。 作業に没頭していた僕は、現実に引き戻される。 「え?」 振り向くと、背後にピッタリ寄り添うように男子生徒が立っていた。 いつの間に教室に入ってきたのだろうか。 印象的な切れ長の目が、笑って細められている。 僕が担任を受け持っている2年B組でも一際目立つ存在の梧桐(ごとう)だ。 彼は高校生の癖に既に190近い身長に、スラリと長い手足をもっている。 それだけでも十分目立つのに、限界まで脱色した銀髪をハーフアップに(まと)めている。 男っぽくもあり、少し中性的な色気もある。 生徒の噂ではファッション雑誌でモデルのバイトをしてるらしい。 「お前、見てたのか」 あの一部始終を見られていたと思うと、気不味(きまず)くて少し、目が泳いだ。 「まあね」 梧桐は、さも楽しげに笑いを(こら)えている。
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