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俺の中に渦巻く彼女の歌声に、俺は自分でもどうしてかわからないほどに腹をたてていた。
合唱ってハーモニーなんだぜ。
ソロじゃないんだ。
確かに、彼女の実力はあのコーラスの中で際立っていた。
大きくしっかりとした声が、しっかりとした音程で発せられていた。
他の部員たちの声は、まるでドーナツの周りにまぶされている砂糖のように、いつ振るい落とされるかもわからないような危なっかしい存在だ。
だからって、ドーナツそのものだけじゃ、売り物にはならないんだよ。ドーナツという食べ物は、丸い穴のあいたパン生地をあげて、それに砂糖がかかって初めてドーナツとなることができる。
何だか変な例えになってしまったけど、とにかく、あんな歌い方をしていちゃいけないんだよ。
思い出すのは2年前、うちの小さな教室で二人で受けたレッスンのこと。
彼女は、父親の話を一生懸命素直に聞いていた。
その時、俺は反抗期真っ只中で、彼女とは真逆な態度を取っていたっけ。
そんななか、素直な態度の彼女から、本当に純粋で一片の曇りもないほどの澄んだ歌声が、狭い部屋に響いたのを覚えている。
本当に綺麗な声で、俺はその歌声に魅了され、恋に落ちてしまったんだ。
当時の彼女は、と言っても、俺が知ってるのは週に一度、90分という短いレッスンの時間だけなんだけど、いつも一生懸命で、よく笑い、父親はもちろん、俺のことまで気を使ってくれる人だった。
外見もさることながら、そんな大人っぽい態度にも、俺はひかれた。
学校のクラスの女子など、まるでガキだって思ってたっけ。
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