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自分の中の怒りを押さえながら、何とか、部活紹介、ホームルームを終えることができた。 クラスメイトの挨拶にもろくに応じず、黙々と帰り支度をする。 「おい、笠井」 いぶかしげに俺を見るクラスメイトとは違い、加藤は心配そうに声をかけてくる。 でも、俺は、そんな加藤の言葉にさえ、返事をすることができなかった。 この怒りを収める方法はただ一つ。 怒りの矛先へと怒りをぶつけることだけだ。 何を言おうかなんてことは考えられない。 ただただ、この怒りを彼女に伝えたかった。伝えねばならなかった。 それを実行した後のことなども勿論考えられない。 この時の俺は、平常心とか冷静さとか、道徳心とかモラルとか羞恥心とかいう、普段当たり前に持っていて、自分自身行動の拠り所としているものを全て失っていたんだ。 「なあ、笠井、どうしたんだよ?お前、合唱部の歌のあたりから急におかしくなったよな?合唱部に行くのか?第二音楽室に行くのか?」 肩に手を置いて、加藤が俺に話し掛けてくる。加藤が俺の冷静さを取り戻そうとしてくれているのは、こんな状況の中でもわかった。 それと、俺は何も喋ってはいないのに、俺が合唱部に行こうとしていることがわかっていることも理解できた。 加藤はきっと、頭のいい奴だ。 非常にありがたかったが、加藤は俺を止めることはできない。 だって、俺ですら俺を止めることはできないのだから…。
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