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第二音楽室に向かう俺の足取りは、どんどん早くなる。
「そっちじゃなくて、こっち」
加藤は、聞いても何も答えない俺に、かなり戸惑っていたようだが、それでも、道を間違えた俺をさりげなく導いてくれたりした。
そんな加藤のおかげもあり、俺は第二音楽室まで来た。
練習はまだ始まっていないのだろうか、歌声は聞こえず、女子の甲高い話し声だけが耳に届いてくる。
その声を聞いて、少しだけひるんだ俺は、足を止めた。
それを見逃さなかった加藤は、もう一度俺に声をかけた。
「笠井、なあ…」
加藤の俺をいさめるような声を聞き、馬鹿にされたような気がした。
実際には、そんなことあるはずもなく、彼はただ俺を心配してくれただけだ。
そんなことは、長い付き合いを経ることなくても、充分理解できるはずなのだが、その時の俺には、考える余裕すらなく、加藤のその一言さえもが、俺の神経を高ぶらせるのに充分であった。
「行くぜ」
俺は、意を決して歩みを進めた。
「笠井ー、待てよー」
後ろの加藤の声は俺には聞こえない。
ただ、音楽室のドアの一点を見つめ、そこを目がけて速足で目的地へ向かうだけだった。
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