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森田先生は、本当に焦っているようで、次の日の晩には俺の家にやって来た。 俺にとっては、いきなりの家庭訪問だ。 教室の方にいる先生と父親にと、祖母からお茶出しを言いつけられる。 「嫌だよ」 と言う俺の意見は速攻で却下され、 「学校の成績よくなるから」 と絶対に有り得ない、いや、有ってはならない理由で送り出された。 仕方なくお茶を載せたお盆を持って教室の方へ行く。 二人は、何の話をしているのか、和やかな空気が流れていた。 「いらっしゃい」 俺が茶を出しながら言うと、 「いらっしゃいませ、だろ。担任の先生なんだから」 「はい、はい」 「全く、不出来な息子で申し訳ない」 父親が頭を下げると、森田先生が笑う。 「先生が父親してる姿って新鮮ですね」 それから、 「躾ついでに、合唱部への入部を勧めて頂けると助かるんですけど。出来れば、強制的にでも」 と言った。 「先生、俺の好きでいいって言ってたじゃないですか」 俺が文句を言うと、 「それだけ、あなたに期待してるってことよ。いただきます」 涼しい顔で言って、茶をすすった。 「で、息子も入る合唱部の指導をしてくれと言うんだっけ?」 父親が切り出すと、森田先生は、姿勢を正し、真っ直ぐに父親の方を見て深々と頭を下げた。
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