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まだ、仮入部の段階で見学しているだけだが、俺は部活ではおとなしく、加藤の陰に隠れるようにして過ごすことにした。加藤もそれを理解してくれているようで、何かと気にかけてくれるのが有り難い。
あの日の現場を目撃していた先輩たちの視線は時々痛いが、気にしても仕方がないと開き直ることができた。
これは、加藤の存在に加えて、田中さんが気遣ってくれているおかげだろう。俺に対し、好奇の目を向けてくる先輩もいたが、あの日のことについて直接何か言ってくる人はいなかった。
そして。彼女自身も俺に対して何の反応も見せない。
田中さんに何か言われているせいなのか、はたまた、ただ単に、俺のことが嫌いなせいなのかはわからないが、教室の隅で座っている俺のことなど、見えていないかのようなふるまいだ。
それが、彼女にとっても、俺にとっても一番いい方法だと言うことはわかっている。ありがたいとも思うよ。
でも、彼女は変わってなどいなかった。練習の時でも一人で目立っていた。
東山の合唱部の練習を見学していて思ったのは、彼女の声がなかったら、意外とまとまっているんじゃないかと言うことだ。
声量こそ弱いが、その繊細な歌声はそれはそれで綺麗なんじゃないかな。
それが彼女の声にかきけされ、繊細な部分がただ頼りないように感じられるような気がした。
彼女は、部員たちの発声指導もしている。力のない部員たちは、彼女のやり方を真似ようとするが、うまくいかないようだ。
結果的に、それでいいんじゃないかな。
彼女のような歌声を合唱の中でやるような人が他にもでてきたら、まとまりは更に悪くなるだろうから。
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