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そうだ、俺は、音楽に関して、父親の言うことを全て聞いてきた。 ピアノ、ギター、ヴィオラ、トランペット、声楽、合唱、作曲、聴音…。 そして、俺は、それらが苦痛ではなく、寧ろ楽しみや喜びであった。 でもそれは、父親から教わり、自分だけで楽しめば良いものばかりであった。 他人への指導なんてしたことがない。ましてや、自分より年上の人たちに。 俺の暗い気分とは裏腹に、家に帰ると父親はすぐに声楽の指導方を俺に伝授した。 父親がいつも声楽のレッスンや合唱団でやっていたことと同じで、すぐにマスターする。 「ピアノの前で、全体の音をよく聞いて、自分の思った通りのことを言えばいいよ。前にいると、嫌でもわかるから」 父親は事も無げに言ったが、俺の心はずっと重たく、晴れることはなかった。
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