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見た目にも仲が良くなったのはわかったが、一番の変化は、男女問わず互いに下の名前で呼び始めたことだ。
目の前で、自分の好きな女が、他の男に呼び捨てなんかされるのは、面白くない。
それが以前からのものであるならまだしも、いきなり変わるのは、まるで彼女を取られたような気分になる。
俺のものでないことなんかわかっているのに。
そんな気持ちになることすら許されないことだとわかっているのに。
お世話になっている先輩方に対してまでも抱いてしまう、俺のくだらぬ嫉妬心に、ヘドが出そうな嫌悪を感じる。
俺って、馬鹿だ。
叶いっこない恋を求めて嫉妬みたいなことをしているなんてさ。
だけど、どこかで、自分でも気づかないような心の隅で、期待もしてるんだよ。
また以前のように笑いあい、歌いあえる日が来るんじゃないかって。
絶対にありえない、ただの妄想。
「おい、理穂」
目の前で男の先輩に呼ばれ、
「なによぉ?」
と明るく少し甘えたような声で答える彼女。
その笑顔を俺に向けてくれる日は絶対に訪れないことを俺は知っている。
俺は、誰にも知られないように、その妄想を溜め息と共に、俺の中から追い出した。
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