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夏のコンクールは、7月30日。 高校生の合唱指導は初めてだった父親は、家でもかなり研究しているようで、熱も入っているようであった。 7月に入ると、父親は自分の音楽教室の生徒のレッスンの時間を調整し、毎日学校に来るようになり、練習時間も伸びて行く。 1、2年生が帰った後も、3年生だけは残って父親の指導を仰ぐ。 音楽教室の都合で、父親とそれに同乗する俺が帰った後も、教室に残れるぎりぎりまで練習を重ねていたようだ。 そんな3年生に感化されるように、1、2年も、森田先生も遅くまで残るようになる。 俺もありえない、くだらない妄想をかきけしながら、練習に参加した。 発声練習を見ていても、東山高校の合唱部が、4月とは全く違う状況であることはわかる。 全員が驚くほどに、実力をあげていた。 音程を取ることさえままならなかった1年も、基礎的なことはほぼマスターできた。加藤のような合唱初心者もいたから、これはものすごい成長だ。 3年に頼ってばかりだった2年も、だいぶ力強い声が出るようになり、合唱は、随分厚みのある、立体的なものへと進化した。 3年は、特に男声パートの頑張りが、合唱部の支えとなった。 そして、彼女。 何度も父親に注意されたこともあり、今までのように一人で声を張り上げるようなことはなくなった。 以前のような繊細なソプラノを奏でられるようになっていた。これは、他の部員たちの歌声をよく聴いたおかげであり、繊細なだけでなくて、力強さを必要とされるフレーズでは、これまで通り、部員たちを引っ張っていた。それでも、今までのように悪目立ちしなくなったのは、他の部員のレベルが格段に上がったからだ。 東山高校合唱部は、全員、合唱に没頭していた。 少しでもよいハーモニーを奏でられるように。 少しでもよい結果が残せるように。 暑い夏。 蝉の声と共鳴するかのごとく、歌い続けた。 コンクールは、もうすぐそこに迫っていた。
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