5/6
前へ
/103ページ
次へ
俺が彼女に会ったのは、中学2年の時、父親の音楽教室でだ。 学校の女子からの告白は、面倒だと断っていたのに、彼女のような人が現れるとは思ってもいなかった。 彼女は、俺より2つ上の高校1年生。 漆黒の長い髪、白い肌、可愛らしい顔立ち。 そして、何より、音楽に対する熱い思い。 たった2つだけど、彼女はすごく大人に見えて、俺は憧れの気持ちを抱き始めた。 彼女の名前は、本郷理穂。 音楽大学への進学を目指し、父親の所に声楽を習いに来ていた。 その声は透き通るようなソプラノで、レッスンを続けるごとに、どんどん上達していく。 そんな彼女と練習する時、父親は他の生徒以上に熱心に接しているのがわかった。 彼女は声楽だけのレッスンであったが、父親は音楽全般に対する様々なことを教えていた。 ピアノや他の楽器のこと、歴史や作曲に関すること。 その中で、父親が口を酸っぱくして言っていたのが、合唱のことだ。 父親は、中学教師をやっていた時、合唱に力を入れていた。生徒を率いて、全国大会に出場したのも一度や二度のことではない。 そんなこともあり、自分の思い入れの強い生徒である彼女が、学校の合唱部に入ったのが嬉しかったようだ。 「あなたの歌いかたは、ソロの声楽としては、いいけど、合唱で、しかも30人にも満たないところではちょっとまずいかもしれないね。合唱というのは、ハーモニーだからね。みんなの声をよく聞いて、合わせないといけないよ」
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加