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新学期。
俺の新しい高校生活への不安を最初に解消してくれたのは、クラスメイトの加藤健太だった。
席が前後と言うことで、加藤の隣の席の宇野佑香を含め、話をするようになった。
誰かと話せるだけで安心するなんて、中学時代では考えられなかったことだ。
休み時間や放課後、3人の話題に上ったのは、部活をどうするか、と言うことだった。
宇野は、ガタイのいい体つきをしており、中学から続けている砲丸投げをやるために陸上部に入ると決めていた。
それに対して、俺と加藤は全く決めかねている。俺は野球、加藤はテニスと、中学ではメジャーな部活に入っていた二人だが、高校でも続けるほどの実力も情熱も持ってはいなかった。
「俺は帰宅部でもいいや」
加藤は、そんなことを言い出す始末。
俺も、それでいいかな、と思っていた矢先、ホームルーム終わりで担任に呼ばれた。
担任は、25歳くらいの若い女性教師、森田愛。男子たちは、かわいいと色めきたち、女子は、頼りなさそうと囁いた。
自己紹介では、東山高校で担任を受け持つのは初めてだというふうに言っていた。
「笠井くんのお父さんて、以前中学で音楽を教えていた笠井先生かしら?」 いきなり言われ、俺は、無言でうなずいた。
「やっぱり。私、随分昔だけど、笠井先生に教えて頂いたのよ」
こんなふうに言われるのは初めてのことではなかったので、そのあとは落ち着いて答えられた。
「そうですか」
「今、私、合唱部の顧問やっているのよ。その時の実績が買われたのか、他にやり手がいないのかはわからないけどね」
森田先生は、国語教師である。音楽教師が合唱部の顧問でないと言うことでも、この学校における合唱部の位置づけが低いことがうかがえる。
「いい先輩たちが待ってるわよ。笠井君も、ぜひ入部してよ。お友達もたくさん連れて」
「まだ決めてないんで。中学の時からの野球を続けたい気持ちもあるし」
「そう。でも、レッスンもやってるんでしょう?お父さんに聞いたことがあるわよ。その実力を我が合唱部で生かしてくれるとありがたいんだけど」
森田先生の笑顔は、大人とは思えぬほどキュートで、思わずうなずきそうになった。
宗教やネズミ溝でもやらせたら、営業成績いいかも、などと考えながらも、俺は答えた。
「検討しときます」
先生に負けないくらいの笑顔を添えて。
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