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最後に一言だけでも言わせてほしかった。
10月の肌寒さを感じる朝、布団の中で意識だけが浮上する。
嗚呼、今日は寒い。
また一段と気温が下がったのか。
ん?寒い?何故だ、おかしいじゃないか布団から出たわけじゃないのに寒さを感じるなんて。
こんな寒さいつもは感じない。
手先の感覚を頼りに隣を探る。そこで冷水を被ったかのように目が覚める、掛け布団を捲り上げ、視界に映ったのはシワの寄った真っ白なシーツだった。
直ぐ様寝室から出て、部屋中を探した。マンションだから下の住人にグチグチと言われるかもしれないと頭に過ったがそれどころではなかった。
洗面所に入って洗面台を見た瞬間、否定していた現実の少しを悟った気がした。彼女の歯ブラシが無いのだ。
いや、まだだ…まだ希望はある。これだけでは、まだ…。
ただ単に壊れて捨てただけだという場合もある。
ゴミ箱を見る。中は空っぽ。
朝のゴミ出しの時と一緒にして捨てに行ったんだ。
浴室の曇りガラスでできた扉開けてみる。全身鏡が僕の姿を映す。その鏡の少し下に並んでいた筈の彼女が使用していた洗顔料やトリートメントが無くなっていた。
多分、昨日で使いきったのだ。今は買い出しに行っているのだろう。
昼までには帰ってくる筈だからそれまでは待っておこう。
僕はゆっくりとリビングに足を進めて行った。
リビング机にあった青い封筒を見たら何故か涙が溢れた。
end
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