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「ねえ、ヒデは好きなひととかいるの?」
中学2年生の春、代表メンバーでとある飲食店を訪れた時の事だ。相変わらずジャンルカは店員の女の子を口説き倒していたし、相変わらずヒデは皆を見守るような笑みでホットコーヒーを啜っていた。俺は頼んだカシスジェラートを食べようとしたのだが…長いこと冷凍庫で眠っていたようだ。固すぎてスプーンが入らない。
しょうがないから皆の話にでも耳を傾ることにした。オルフェウスのメンバーは混雑した店の中でも一際騒がしかった。
「秘密かな」
「えーなんでー?」
「俺はあまり自分の事 を話すのは好きじゃないんだ」
―マルコとヒデが話している。
あまり自分の事を話したがらないのは日本人の謙虚さとか内向的な部分なのだろうか。ヒデは浮わついた噂なんて聞かないし、俺たちイタリア人とは大違いだ。そんな俺達が一緒のグラウンドでサッカーをしているなんて凄い偶然なのだろう。
そんなことを考えてこの事を俺は彼に話したくなったけど、遠くから盗み聞きしてたなんてよく考えたら恥ずかしくなったので止めておいた。
「フィディオ」
「なんだいジャンルカ。さっきの彼女には振られたの?」
彼が執拗に口説いていた可愛いウエイトレスはホールにすら見当たらない。ああ、もしかして逃げられたのかな。いつもそういう事に手慣れてるチームメイトがしくじったかと思うと笑えてくる。
「いや、そうじゃなくて。女に興味を示さないと思ったらそういう趣味なのか。お前、さっきからヒデばっか見てるぜ」
「なっ…ジャンルカ!からかうのはよしてくれよ!」
固くてスプーンのはいらなかったジェラートはとっくに溶けてしまっていた。
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