彼と俺

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彼がこれから先も俺を見てくれないであろうことは薄々学生時代から分かっていた事ではあったのだ。それでも俺は少し期待していた部分もあった。時間をかけて自分を知ってもらえれば、もしかしたらこの想いは叶うのではないかと。彼と結ばれる日が来るのではないかと。子供ながらにそう考えていたのだ。 ―そんな期待なんて今となっては幻想に過ぎなかったのだけれど。 彼、ヒデ・ナカタは俺のチームメイトであり、イタリア代表オルフェウスキャプテンだった。 彼と初めて会った日の事は今でもはっきり覚えている。刈り上げた髪に東洋人らしき顔立ち。代表選抜合宿で初めて彼を目にした時は東洋人という事とその柔らかい雰囲気からあまり強いプレイヤーとは思えなかったし、なにより俺自身も余裕がなく自分だけで精一杯だったから。でもそんな考えはものの一瞬で消え去ってしまった。正確なパス。力強いシュート。そして瞬時に反応出来る観察力。その日から彼は俺の憧れになった。
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