第一章:無作為

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「あら、流石ね」  相変わらず能面のような表情で発した言葉は、まるで僕のことを知っているかのような口ぶりだった。 「……何が?」  男の頭から足を退かし、目を細めながら女を見る。僕は目が悪いのだ。できることなら、今目の前にある現実を視界から消してしまいんだけど。 「何が、だなんて、そんなの決まってるじゃない」  女はぼんやりと空を眺めながら、また冷たい声で言う。  「流石“人殺しの息子”ってこと。何の迷いもなく人の頭を踏みつけるなんて、下手したら死んでるわよ。その下種」  バットのほうが危ねえだろ。  そんな羽も生えていない言い訳を無理矢理飛ばし、僕の方が暴力の度合いは低いですよー、と訴える。これで彼女のほうが軽い罪だった場合、僕は涙腺から涙以外の物体を流せそうだ。  ……だけど。 「……あー、なるほど」  知ってるんだ、そういうの。鬱陶しいな。  女は空に向けていた視線を僕に向け、男の時と同じように訊ねてきた。 「下種に乱暴されかけたところを人殺しの息子に助けられるなんて、本当、世界は狭いわよね――あなたに分かるかしら? わたしの気持ち」  僕は答える。 「分かんねぇよ」
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