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健全なイメージは既に影を潜め、ひたすら闇へと身を思す太陽は色彩を黄から橙へと変化していた。残り香を示すように、今日最後の明かりであるというその斜光は、西に置かれた窓から、教室を侵食していた。
窓と窓をつなぐ間のおおきな柱。陽の当たらない場所。教え子である長谷川はそこで他の生徒が全員教室を抜けるまで座っていた。半開きの窓から伝う吹奏楽の音。野球部が、本日の練習を切り上げ帰ろうという声が、今日はやけに生々しく聞こえる。クラスの中で地味な存在、他人に指示されるまで自らの行動を決して起こさない、誰とも組まず、昼は校内のベンチで独り膝の上で小さく弁当を広げ、黙々と食べ物を口に運んでは、昼休みが終わるまで図書室でこもっていた長谷川。いじめられているわけではないが、取り立てて注目もされていない彼女が、普段しているメガネをしていないせいか、普段は結んでいる髪を解いているせいか、言われもしない美しさというか、何故だか背徳感情が俺の心を押し上げていた。
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