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北関東・水戸の沖合数十キロに浮かぶ、琵琶湖の二倍はありそうな大きな島、波城島。
朝の通勤ラッシュでせわしなく動く波城の空は、春爛漫とした空気を放つ桜に包まれている。今年の冬が暖かかったおかげか、例年ならちらほら咲いているだけの桜の花も、もうそろそろ見頃が終わりそうだ。
桜のピンクと、ビルの灰色に染まるビジネス街から十数キロ、緑の街路樹のカーテンが道の両脇に下ろされている、住宅街の一角。周りを囲むアパートに埋もれるかのように建つ一軒家の二階で、ノイズが少しも混じらないようにチューニングされたFMラジオが掛かっている。
部屋の中には、パジャマ姿の少年が一人。寝起きなのだろうか、ベッドに腰掛けたまま眠そうに瞼を擦った。
少年の名は、相澤尊憲(-タカノリ)。この日から高校生になった尊憲は伸びをして瞼をぱちぱちと瞬かせると、真新しい制服にそそくさと着替え始めた。
「はぁ、今日から高校生、か。制服もブレザーになったのに、まだ実感沸かないや」
尊憲はそう呟くと、部屋をぐるっと見回した。
布団が剥ぎ取られて骨組みが露わになったコタツ机が、尊憲の前にまるで部屋の主だと言わんばかりに横たわっている。隣にあるL字型の机の上は、大量のCDアルバムと音楽雑誌が占領中。ただ、散らかっているのは机の上だけで、床もベッドも、すぐ寝転がれるほど綺麗に片付いている。
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