戸惑う。

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職場に行って、早速あたしは行動した。 社内でも一番の芸能通で、アイドルが大好きなケイちゃん。 まだ大学生のアルバイトだ。 「ケイちゃん。 なんかの炭酸のCM出てる男のひと知ってる? 目が緑の」 すると、打てば響くようにすぐさま返事をくれた。 「都築(つづき)タカシですか? 知ってますよ、イケメンはたいていわかります。 好きなんですか?」 止める術もなくカッと頬が熱くなる。 ケイちゃんの言った意味とは少し違う「好き」が、一気に頭を埋め尽くした。 あたしはもう相当きてる。 相手が誰であろうと、この感情を押し止めるなんてもう無理。 「好き」が強すぎて驚きにも勝ってしまう。 「富樫さんはあんなタイプがいいんですね。 でも……想像するとお似合いかも。美男美女だし」 「美女じゃないし」 「なに言ってんですか。 富樫さんファン多いですよ、バイト男子」 話が逸れてきた。 「それはそれとして。 あのひと日本人? なにやってるひと?」 「そんなに興味あるんですか? 珍しいですね」 嬉しそうなケイちゃんの声に、あたしも少し笑った。 自分でも珍しいと思う。 芸能人なんてまったく興味ないくせに。 彼のことは知りたい。 全部知りたい。 「都築タカシは俳優ですよ。イケメンだけど、演技派俳優です。賞とかもらってるし。 確か、日本とイギリスのハーフだったと思います。あの目は父親譲りらしいですよ」 あたしは少なからず動揺した。 俳優。 演技派。 なぜこんなにも胸が痛むのだろう。 疑っているわけじゃないのに。
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