海になる

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ラルフローレンのポイントが入った紺色のハイソックスは熱を吸い込む。わたしはソックスをつま先から抜き取り、はだしになった。 ワイシャツのボタンを胸元が見えない程度まで外し、風通しをよくする。 目の前の海に飛び込みたいと思った。ほてった体を海に投げ出したい。 わたしは立ち上がり、砂浜に出ることにした。いま、わたしが立っている場所から見る限りは、砂浜には誰もいない。 砂浜に続くやたら横幅の広い石段を飛ぶように下り、砂浜に足を踏み入れる。あしもとは羽根が生えたみたいに軽やかだった。わたしはローファーも脱ぎ、靴下も脱ぎ、リボンも外し、いまはもうワイシャツとスカートしか身につけていない。とても開放的な気分だった。 あしもとを波がやさしく撫でる。わたしは渚に倒れこんだ。ここには誰もいない。わたしひとりだけ。水と砂の感触。足、腹、腕、頬。波がわたしを愛撫する。開放的になるということはなんて気持ちの良いことなのだろう。不思議な開放感だった。 海水に濡れた衣類が肌に張り付くけれど、気にならなかった。目を閉じる。波や砂、太陽の光、風を感じる。漂流したひとって、きっとこんな感じで見つけられるのかしら。 静かだった。波の音、鳥の鳴き声くらいしか聞こえない。わたしはきっといまみんなから逸れている。みんなとはまるっきり違う場所にいる。わたしは制服を身にまとっているけれど、これは海水に濡れた制服なのだ。もう息苦しくない。わたしは、ちゃんと呼吸している。
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