第一章 「目覚める悪夢」

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「隊長。国王陛下より下賜の品が届きました」 普段は大きな瞳と大きな鷲鼻が鳥を思わせる風貌のゴルジェであるが、このときばかりは餌を見つけた鼠のようである。 「おお、来たか。ご苦労、ご苦労」 報告を受けたドレイク隊長も、その糸のように細い目を見開き、嬉しそうに口ひげを震わす。 「なんだべ?二人して?『カシのシナ』ってのは、そんなに美味しいんだべか?」 『下賜の品』とは贈答品のこと。 身分の高い者、特に王族から民衆に贈られる場合、このような表現を用いたりする。 「ケッ。テメーはホントに、食い意地が張ってやがるな」 嬉しい贈り物イコール美味しい食べ物。 そんな単純明解なヨッブの推測を、ヤックが鼻で笑った。 が、今回ばかりはヨッブの推理が的中したと言えるだろう。 「そうだぞ、ヨッブ。毎年、収穫祭のこの日には、国王陛下が我らにご馳走と酒をたらふく振る舞って下さるのだ。隊長もオレも、それが楽しみでならん」 『クックック』、と喉を鳴らして笑う様は、鳥を思わせるゴルジェになんとも似つかわしいものであるが、ご馳走と聞いたヨッブと、酒と聞いたヤックには、当然ながらそれどころではない。 「はい。オレ、明日から文句言わずに見張りやります」 「オラも、オラも。しっかり見張りますだ」 直立不動で挙手までする二人。 ドレイクとゴルジェが、顔を見合わせてそれぞれの仕草で笑声を飛ばす。 「ハッハッハ。心配せずとも全員に行き渡る」 「クックック。とは言え、酒も料理も熱々に限るからな。お前たちはやっぱり、ツいてるぞ」 顔を赤らめる二人の青年、ヤックとヨッブを手招きしつつ、ドレイクとゴルジェはカチャカチャと部屋を出て行った。 それを嬉々とした表情で追いかける二人の若き民兵。 どうやら今宵は、この寂れた北の果てにおいても、ささやかながら祭りの雰囲気が楽しめそうであった。 翌日。 ヤックとヨッブ、二人の姿はいつものように物見櫓の上にあった。 起床、朝食の後点呼を受けて、午前中は実践的な戦闘演習。 それが終わり午後になると、日が暮れるまで北の森丘地帯の監視。 彼ら二人の一日は、こうして更けていくのである。
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