第一章 「目覚める悪夢」

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「ふあ~ぁああ。本日も異常なしだべなあ」 あくび混じりにつぶやくヨッブを横目に見つつ、ヤックも懸命に襲い来る眠気と戦っていた。 それにしても眠い。 とてつもなく眠い。 良く晴れた秋空を彩る羊雲でさえも、どこか眠気を誘っているように感じられる。 昼食を終えた昼下がり。 空は気持ち良いほどの快晴で、気候も申し分ない。 そしてやることはと言えば、何ら変化の無い森林地帯をぼんやりと眺めるだけ。 おまけに昨夜の酒もまだ完全には抜けていない。 これだけの条件がそろっては、眠くならないほうがどうかしていると言えるだろう。 ヤックには未だ実戦経験はないが、今行っている睡魔との戦闘の方が、よほどつらいに違いない。 そんな事を考えるうち、知らぬ間にうとうととまどろみ始めたヤックであったが、不意に聞こえてきた大きな音に、ハッとなって顔を上げた。 「ぐごぉー」 ヨッブのいびきである。 「こらテメー!寝てんじゃねえよ!任務中だろうが!」 ヤックは反論の余地なき正論を掲げて、ヨッブの肩を小突いたり揺すぶったりと、起こしにかかった。 その口調と態度からよく誤解されることであるが、ヤックはいたって真面目な青年である。 この北国境警備隊に配属された直後も、ヤックの美しいとは言えない言葉づかいにドレイク隊長などは眉をひそめたものである。 だが、その後の訓練や演習に取り組むヤックのひたむきな姿勢を見て、ドレイク以下すべての者たちがその考えを改めた。 どれほど悪態をつこうとも、やるべき事はやる男。 そういう評価を得ていたのである。 「んあ?オラは寝てないだよ?」 寝ぼけまなこを擦りながら惚けるヨッブに、ヤックは体全部を使ってため息を表す。 「そうかよ、そいつは悪かったな」 そう言った後舌打ちを鳴らすヤック。 ヨッブには皮肉が通じないことを思い出したからだ。 「なに、謝ることはないだよ」 ポリポリと尻を掻くヨッブに向かって何かを言ってやろうと思ったが、ヤックは虚しくなったのか、反論を放棄したようである。 それからしばらく、二人は黙って北方を眺め続けた。 時折気の早い渡り鳥を見つける以外は、とりたててそこに変化は見受けられない。
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