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(本日も異常なしか…)
そう思い、『当たり前か』と思い直したのち、ヤックは北の森から上空に目をやる。
また渡り鳥だろうか。
そこには黒い影が一つ、ポツンと浮かんでいた。
「おい、ヨッブ!あれを見ろ!」
その黒い影を指差し、ヤックが突然叫んだ。
「んあ?どうしただ?また鳥だべか?」
なぜか鬼気迫るヤックに促されヨッブも視線を移しはするが、そこには依然、黒い影があるばかりである。
「あれがどうかしただか?どうせ鳥だべよ」
あくびを噛み殺すヨッブ。
だがヤックは、それを凝視し続けている。
「いや、影の大きさが変わってねえ。ってことは、あれはあそこで止まってるってことだ。鳥なら風に乗って動くはずなんだよ!」
さすがは猟師と言うべきだろうか。
ヤックの知識と経験が、得体の知れない黒い影を異様な物であると警告している。
「おい、ヨッブ!隊長に報告しろ!何だか知らねえが、あれはやべえ!」
「わ、わかっただ」
巨大な体を機敏に動かし、昨夜の倍ほどの速度で梯子を駆け下りるヨッブを視界の外に収めつつ、ヤックは再び例の黒い影に注意を向ける。
すると、最初は一つだけであった黒い影が、あちらに一つこちらに一つといった具合に段々と増殖していく様が見えた。
「どうした!?ヤック、どうなっているんだ!?」
黒影は増え続ける。
雲霞の如く、とはよく言ったもので、既にそれは単一の影の集合体ではなく、一つの塊として上空に浮かんでいた。
事情を聞いて駆けつけたドレイクが物見櫓へと駆け上がる頃、それははっきりと異様さを視認出来るほどに成長を遂げた、黒い雲となって森の上空を覆っていたのである。
「何なんだありゃ。気持ちワリー、昼に食った芋が戻ってきそうだぜ」
「気持ちは分かるがここではよせよ。掃除が大変だからな」
嘔吐感を訴えるヤックをたしなめつつも、ドレイクはその圧倒的に禍々しい様相を注視している。
黒い雲。
もしくは黒い塊。
そうとしか呼びようのないそれは、見渡す限りの森の上空に、ただ浮かんでいる。
息を飲む思いでドレイクとヤックの二人が凝視し続けるが、その黒雲はやはりただ浮かんでいるだけであった。
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