53人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふむ。さて、ヤック。凄腕の猟師は目も良いと聞くが、お前はあれを何と見る?」
目前で起こった不可解極まりない現象について、ドレイク隊長はヤックに意見を求めた。
「ケッ。知るかよ。鳥にしちゃあ動きが無さ過ぎるし、虫にしちゃあデカ過ぎる。ったく、わけがわかんねえぜ」
遠目の効くヤックでも、さすがにこの距離で細かなところまでは見えないらしい。
だが例え見えたところで、彼にその正体を見抜くことは出来なかったであろう。
「そうか…正体不明の謎の影か…」
キリッと整った眉をひそめ、ドレイクはすべてが治まった森を眺めながら唸る。
「まあ、いずれにしても待ちに待った『異常事態』ということだ。良かったな、ヤック。退屈しないですみそうだぞ?」
「はあ?なんだよ、それ?」
ドレイクの言い草に苦笑するヤック。
人知を超えた不可思議現象を目の当たりにし、本来ならば恐怖を覚えてもおかしくはないのだが、肝の据わったドレイクのジョークがヤックのキツネ目に宿った怯えを打ち消したようである。
「おーい、ヤックー!どうなっただかー?」
櫓の下からヨッブの問いかけが聞こえた。
高い石塀に囲まれた中庭からは、今の光景を見ることが出来なかったのであろう。
だがあの突風自体は感じたはずなので、その声に多少の怯えが含まれるのも無理はない。
「なんだか知らねえけど、消えちまった!」
ヨッブはああ見えて繊細なところがある。
幼なじみとして幼年期を共に過ごしたヤックは、そのことをよく知っていた。
ここで自分が恐怖に染まった声を挙げては、ヨッブにいらぬ不安を与えることになるだろう。
ヤックから不安を消したドレイクのジョークは、そこまでを考えての事ではないかもしれない。
だが、自分と幼なじみのヨッブを不安から救ったドレイクの頼もしさに、ヤックは素直に感謝の念を覚えた。
最初のコメントを投稿しよう!