第一章 「目覚める悪夢」

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「ふむ。さて、ヤック。凄腕の猟師は目も良いと聞くが、お前はあれを何と見る?」 目前で起こった不可解極まりない現象について、ドレイク隊長はヤックに意見を求めた。 「ケッ。知るかよ。鳥にしちゃあ動きが無さ過ぎるし、虫にしちゃあデカ過ぎる。ったく、わけがわかんねえぜ」 遠目の効くヤックでも、さすがにこの距離で細かなところまでは見えないらしい。 だが例え見えたところで、彼にその正体を見抜くことは出来なかったであろう。 「そうか…正体不明の謎の影か…」 キリッと整った眉をひそめ、ドレイクはすべてが治まった森を眺めながら唸る。 「まあ、いずれにしても待ちに待った『異常事態』ということだ。良かったな、ヤック。退屈しないですみそうだぞ?」 「はあ?なんだよ、それ?」 ドレイクの言い草に苦笑するヤック。 人知を超えた不可思議現象を目の当たりにし、本来ならば恐怖を覚えてもおかしくはないのだが、肝の据わったドレイクのジョークがヤックのキツネ目に宿った怯えを打ち消したようである。 「おーい、ヤックー!どうなっただかー?」 櫓の下からヨッブの問いかけが聞こえた。 高い石塀に囲まれた中庭からは、今の光景を見ることが出来なかったのであろう。 だがあの突風自体は感じたはずなので、その声に多少の怯えが含まれるのも無理はない。 「なんだか知らねえけど、消えちまった!」 ヨッブはああ見えて繊細なところがある。 幼なじみとして幼年期を共に過ごしたヤックは、そのことをよく知っていた。 ここで自分が恐怖に染まった声を挙げては、ヨッブにいらぬ不安を与えることになるだろう。 ヤックから不安を消したドレイクのジョークは、そこまでを考えての事ではないかもしれない。 だが、自分と幼なじみのヨッブを不安から救ったドレイクの頼もしさに、ヤックは素直に感謝の念を覚えた。
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