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「わかんねえ。けどなんか、さっきの黒雲と感じが似てやがる…」
第六感と言うよりは本能の部分で、ヤックは強烈な危機感を感じ取ったようだ。
「一難去ってまた一難とは、今日は大盤振る舞いではないか」
口では軽口を叩きながらも、ドレイクも細いが厳しい目線を這い出る黒い物体に向けた。
遠目なのでその姿形は分からないが、異様さは一目でわかる。
もぞもぞと這い回る黒い物体。
特筆すべきはその数。
それは一つや二つではない。
かと言って、十や二十でもない。
その数、目測でおよそ百。
いや、未だ森から姿を現していない分も考慮に入れれば、二百はくだらないと考えるべきだろうか。
民兵、正規兵併せて三十名の北国境警備隊に比べれば、紛うこと無き大軍である。
「なあ、隊長さん。あれってやっぱ、敵なのか?」
異質で異形なる大群の行進を、ヤックは生唾を飲み込みつつ見守っている。
「まあ、そう見るべきだろうな。誰かさんのガラにもない礼のおかげで、この砦初の『敵襲』に見舞われたってわけだ」
「オ、オレのせいじゃねえだろ!」
自分がからかわれていると分かっていながら、どうしても声を荒げてしまうヤック。
そんなヤックに笑みを返して、ドレイクは櫓の下に集う兵士たちに号令をかけた。
「総員、戦闘配備につけ!本当に敵襲が来たぞ!」
途端にざわめきたつ中庭。
集まる民兵にしても正規兵にしても、このような北の果てで敵襲に見舞われるなど、思ってもみなかったからである。
「みんな落ち着け!気持ちはわかるが、ヤックを責めるのは後にしろ!」
「だから、何でオレなんだよ!?」
ドレイクとヤックの漫才じみたやりとりに笑いを誘われ、兵士たちも徐々に落ち着きを取り戻していく。
彼らとて毎日を無為に過ごしてきたわけではなく、もしもに備えて怠りなく準備をしてきたのである。
突然のことに慌てはしたが、それは決して恐怖におののいたわけではないのだ。
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