第一章 「目覚める悪夢」

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「わかんねえ。けどなんか、さっきの黒雲と感じが似てやがる…」 第六感と言うよりは本能の部分で、ヤックは強烈な危機感を感じ取ったようだ。 「一難去ってまた一難とは、今日は大盤振る舞いではないか」 口では軽口を叩きながらも、ドレイクも細いが厳しい目線を這い出る黒い物体に向けた。 遠目なのでその姿形は分からないが、異様さは一目でわかる。 もぞもぞと這い回る黒い物体。 特筆すべきはその数。 それは一つや二つではない。 かと言って、十や二十でもない。 その数、目測でおよそ百。 いや、未だ森から姿を現していない分も考慮に入れれば、二百はくだらないと考えるべきだろうか。 民兵、正規兵併せて三十名の北国境警備隊に比べれば、紛うこと無き大軍である。 「なあ、隊長さん。あれってやっぱ、敵なのか?」 異質で異形なる大群の行進を、ヤックは生唾を飲み込みつつ見守っている。 「まあ、そう見るべきだろうな。誰かさんのガラにもない礼のおかげで、この砦初の『敵襲』に見舞われたってわけだ」 「オ、オレのせいじゃねえだろ!」 自分がからかわれていると分かっていながら、どうしても声を荒げてしまうヤック。 そんなヤックに笑みを返して、ドレイクは櫓の下に集う兵士たちに号令をかけた。 「総員、戦闘配備につけ!本当に敵襲が来たぞ!」 途端にざわめきたつ中庭。 集まる民兵にしても正規兵にしても、このような北の果てで敵襲に見舞われるなど、思ってもみなかったからである。 「みんな落ち着け!気持ちはわかるが、ヤックを責めるのは後にしろ!」 「だから、何でオレなんだよ!?」 ドレイクとヤックの漫才じみたやりとりに笑いを誘われ、兵士たちも徐々に落ち着きを取り戻していく。 彼らとて毎日を無為に過ごしてきたわけではなく、もしもに備えて怠りなく準備をしてきたのである。 突然のことに慌てはしたが、それは決して恐怖におののいたわけではないのだ。
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