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これでは有事の際、あまりに心許ないのは言うまでもない。
そこで考案されたのが『民兵』という組織、制度なのである。
『民兵』とはその字面通り、民が兵となって自らを守るということ。
一般に言う徴兵制度とは違い、民が自らの意志で期間限定の兵隊役を買って出るというものである。
元々誇り高く、自立自尊の精神を持つ『森の民』にとって、この制度は性に合っていたのであろう。
施行後、この制度は瞬く間に定着し、ウォルドの軍事力不足は一挙に解消されたのであった。
普段はのんびりと生業に勤しむものの、有事の際にはその手に武器を持ち替え、国民全員が屈強で精悍な兵士へと変貌する。
『森の国 ウォルド』とは、そういう国なのである。
「凄腕の狩人は脚だけでなく目も良いと聞く。見張りには適任ではないか、なあヤック」
「ケッ。うるせえよ。見え透いた世辞はよせってんだ」
部下の不満を聞いてやるのも隊長の務め。
そういうわけかどうかはわからないが、隊長は口ひげを揺らして、子供のように駄々をこねるヤックをあやすように宥めた。
と、そこへ、扉をノックする音が響く。
「ドレイク隊長、失礼いたします。」
カチャカチャと音を立てて入室する一人の兵士。
ちなみに、民兵であるヤックたちは兜にかたびらという略式の装備だが、正規兵であるドレイク隊長などはそこに金属製の胸当てや脛当てなどを加えた重装備となっている。
なので、歩くときに鳴り響く音によって、その兵士が民兵なのか正規兵なのかが判別出来るのである。
そして今、カチャカチャという金属音を鳴らして入室して来たのは正規兵であり、副隊長のゴルジェという男であった。
「どうしただ?副隊長さん。そんなに嬉しそうな顔して?」
「まったくだぜ。いい歳のオッサンが、そんなににやけるんじゃねえよ。」
入室したとたんに放たれたヨッブの疑声とヤックの罵声に多少面食らったものの、それでもゴルジェは上機嫌で、人よりやけに大きい鷲鼻を膨らませた。
「おお、ヤックにヨッブ。お前ら、ツいてるぞ。」
それだけを言ってゴルジェは、ドレイクに向かって一礼する。
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