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 ──何の事は無い。  ただ俺が、深夜に差し掛かろう住宅街を、我が家目指して歩いていただけの事だ。  ──何の事は無い。  そうしたら、目の前を一人の女の子が歩いていたから、不審に思っただけの事だ。  ──何の事は無い。  近付いてみれば、やっぱりそれは小学生低学年ぐらいの女の子で、やけにスタスタ歩いていただけの事だ。  ──何の事は無い。  俺は遠くから小さく声を掛けてみたが(近所迷惑にならないよう)、聞こえなかったのか無視したのか、その歩みを一切止めなかっただけの事だ。  ──何の事は無い。  そんな彼女を取り巻く夜の闇に、言い様の無い不気味な感じを覚えただけの事だ。  ──何の事は無い。  その感覚に突き動かされた形で、俺が少女に駆け寄っただけの事だ。  ──何の事は無い。  声を掛けながら、少女の肩に手をやると、ようやく少女がこっちを向いただけの事だ。  ──何の事は無い。  振り向いた少女は顔立ちがはっきりしていて、身長から推定する年齢よりも可愛く見えただけの事だ。  ──何の事は無い。  その少女に俺がだらしなく魅取れていると、少女が笑顔で拳銃を俺に突き付けて、こう言っただけの事だ。 「お兄さん、死んでくだちゃい☆」  ──ほら、何の事は無いだろう?
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