乙姫

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時の流れを忘れて仕舞う程、ゆったりとして居心地の良い空間がある。 透明な硝子の向こうに広がる青の世界。 青はグラデーションとなり、世界を埋め尽くす。 何処を見てもただ青い。 そこに光が一縷の筋となって底を照らした。 彩りを添える稚魚の群れ。 芸術的で複雑な造形の珊瑚礁。 耳を澄ませば、水の流れる音が聞こえる。 何処か懐かしい、神秘的な感覚に陥る。 秩序と平穏、そういった理想の様な概念を此処では体感出来た。 此処は竜宮城である。 青いローブを羽織った女性が、36型の液晶画面を睨みつけると、おっとりとした口調で呟いた。 「あらまぁ、反女王派の勢力が中立地区へ・・・ですって。また物騒な事になりましたのね」 そして、リモコンを扱い、電源を落とした。 彼女の容姿にその喋り口調はマッチしており、ふわふわして何処かへ飛んでいって仕舞いそうな危うい雰囲気を彼女は持っていた。世間知らずの箱入り娘と言って仕舞えばそれまでだが、彼女はほんとに、世間を知らず、たった今、呟いた事も本質的には全く理解していない。 完全に浮世離れしている彼女であるが、そうなると逆に世間が気になるようで、近頃は、一ヶ月程前に購入した、その36型の液晶テレビを食い入る様に見ていた。 最初は扱いもままならなかったのだが、慣れてきたのか、テレビに備え付けてある録画機能まで使えるようになっていた。 昔、携帯電話でも驚いていた田舎育ちのデレラと似たような部分もあるが、彼女は根本的に違っていた。 彼女には液晶テレビを見ても、それが何なのか解らなかったのである。仮に当時のデレラが、この36型液晶テレビを見れば、凄いリアクションが返ってくるであろう。然し、分からなければ驚けもしない。始め、36型液晶テレビを見た彼女は、キョトンとしていた。 此処まで来ると世間知らずというよりは無知である。 その、テレビを扱う彼女を見て、泣いている人物がいた。カメ吉という、カメである。 カメではあるが、能力が宿り、ぬいぐるみの様な姿をしている。 彼は、立つ事も喋る事も出来た。 彼女をそこまで成長させたのは、このカメ吉の涙ぐましい努力があったのである。
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