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『しゃぼん玉好きか?』
思いきり頭を縦に振る俺に父が嬉しそうにそうか、と呟いた。
太陽に向かってく虹色の玉は、俺を魅了した。
色んな大きさで、ふわふわして。
けれど何より。
仕事であまり遊べない父が唯一、やってくれた遊び。
しゃぼん玉をやるたびに嬉しそうに笑う父を見て、もっと笑って欲しいと俺は子供ながらに思ったのだ。
―――――――――
―――――
―――
「あと、三ヶ月だって。」
車を運転しながら、そう母が呟いた。
「…は?」
何が?そう思い、俺はメールを打っていた携帯の画面から顔を上げる。
信号が赤になり、車が止まる。
「末期の大腸癌だって。」
…がん?
一瞬、頭が働かず思わず母親に問い返した。
「は、え?…がんって、あの、病気の癌の事?
――…え、母さん、が?」
何故か早くなっていく鼓動を感じながら、違ってあって欲しいと願う。
「…違う。」
前を見据えたまま否定する母親に安堵の息を吐いた瞬間、呟くような声が耳に届く。
「お父さんが、癌なの」
受信音が、車内に響いた。
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