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 準備を終え、月見の丘に向かう。 「月のない夜って、星が一層煌めくみたい」  俺の背で空を見上げ呟くと、掴まる腕に力をこめる。  それは落ちないようにというよりは、何かに縋るような、どこか儚い力だった。 「着いたぞ」  丘に着くと広げた布の上にリリアを座らせ、俺は彼女に背を向けて準備を始める。  袋から取り出したのは、大きめのカボチャ。  本当はもっときれいな丸のものがよかったが、生憎これしか見当たらなかった。  カボチャに魔法の光を纏わせ、浮遊の魔法をかける。 「ふふっ。なんだかでこぼこしたお月さまね」  浮かせるとリリアにも見えたようで、いびつな月にクスクスと笑いを零す。 「距離があればもう少し丸く見えるさ」  光と高さの加減をしながら、少しでも月に近付ける。 「どうだ?」  これ以上は無理だろう限界でリリアに声をかける。 「うん、さすがラクトね」  リリアは満足したのか、偽物の月を見上げ微笑んだ。 「今度は本当の満月の夜に連れてきてやるよ」  明日から俺は遠出する用事があるが、満月までには帰って来られるはずだ。 「そうね。いつかまた、二人でお月見しましょう。今度は本物のお月さまで」  そう言って浮かべた微笑みは、今まで見たなかで1番のものだった。  リリアの訃報が届いたのは、それから二日後。  元々体が弱かったとはいえ、突然すぎる死に、両親は歎き哀しんだ。  どんな魔法でも、人の生命だけは思い通りにはならない。  あの時の月のように、偽物で代用するなんてこともできない。  今思うと、リリアは自分の命の終わりを予感していたのだろう。  だから、偽物でもいいから月見がしたかったのかもしれない。  ――いつかまた、二人でお月見しましょう…。  ……そうだな、リリア。  今度こそ本当の月見をしよう。  生まれ変わって、健康な体で、二人で月見の丘へ行こう……。  あの時の偽物の月とリリアの微笑みは、今でも俺のなかで輝き続けている――…。  
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