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「お月見がしたい」
彼女が突然そう言い出したのは、中秋の名月どころか、月見には最も不向きな新月の夜だった。
「あと半月もすれば満月だ」
それまで待て、と伝えるものの、
「いや。今日じゃなきゃダメ」
なんとも無茶な我が儘を言う。
「ラクト、あなた魔法使いでしょ。大事なお姉さまのお願いなんだから、なんとかして」
なんとかしてと言われても…。
確かに俺は魔法使いで、彼女――リリアは大事な双子の姉だけれども。
魔法使いだって万能じゃない。
月の満ち欠けを支配するなんて無理だ。
「本物の月じゃなくたっていいの。今日、ラクトとお月見がしたいの」
俺の上着の裾を掴んで上目遣いで見詰める様は、なぜかとても真剣で。
「私に魔法が使えれば自分でどうにかするけど……できないから、ラクトに頼んでるの」
彼女の言う通り。
俺達の両親は共に強力な魔力を持つ魔法使いだったが、リリアは一切魔力を持たない。
それは母の胎内にいる時に、俺がリリアの分の魔力まで奪ってしまったからで。
奪ってしまったのは魔力ばかりではなかったのか、リリアは体が弱く、歩くことさえできない。
「……わかったよ。何か代わりを考えてみるよ」
「それでこそラクトよね。じゃあ、月見の丘に行きましょう。やっぱりお月見と言ったらあそこでなくちゃ」
俺が彼女に弱いことを知っていて、リリアはニコニコと場所の注文まで入れてくれた。
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