2/3
前へ
/3ページ
次へ
「お月見がしたい」  彼女が突然そう言い出したのは、中秋の名月どころか、月見には最も不向きな新月の夜だった。 「あと半月もすれば満月だ」  それまで待て、と伝えるものの、 「いや。今日じゃなきゃダメ」  なんとも無茶な我が儘を言う。 「ラクト、あなた魔法使いでしょ。大事なお姉さまのお願いなんだから、なんとかして」  なんとかしてと言われても…。  確かに俺は魔法使いで、彼女――リリアは大事な双子の姉だけれども。  魔法使いだって万能じゃない。  月の満ち欠けを支配するなんて無理だ。 「本物の月じゃなくたっていいの。今日、ラクトとお月見がしたいの」  俺の上着の裾を掴んで上目遣いで見詰める様は、なぜかとても真剣で。 「私に魔法が使えれば自分でどうにかするけど……できないから、ラクトに頼んでるの」  彼女の言う通り。  俺達の両親は共に強力な魔力を持つ魔法使いだったが、リリアは一切魔力を持たない。  それは母の胎内にいる時に、俺がリリアの分の魔力まで奪ってしまったからで。  奪ってしまったのは魔力ばかりではなかったのか、リリアは体が弱く、歩くことさえできない。 「……わかったよ。何か代わりを考えてみるよ」 「それでこそラクトよね。じゃあ、月見の丘に行きましょう。やっぱりお月見と言ったらあそこでなくちゃ」  俺が彼女に弱いことを知っていて、リリアはニコニコと場所の注文まで入れてくれた。    
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加