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一方、柊人はそんなことも知らずに、ある男を目の前にしていた。
「君が最近橋本さんと、とても仲良くしているっていう村上柊人君かい?」
男は抽象的修辞法を敢えて用いるとすれば、整った顔立ちで、校内の女子の中では名を知らぬ方が圧倒的少数であると言うほど。きょんのもう1人の彼氏と噂される男である。
「なんすか? あんたいきなり」
だが柊人はそれを知らない。人望は厚いのだが、何故だか耳にしたことがなかった。
「橋本さんに惚れてるのか?」
突然笑う男、だが表情を歪める。
「悪いことは言わない。諦めろ。最初で最後の忠告だ」
冷たい言葉を浴びせられる。
「いや、あんたに決められる筋合いはねぇよ。それに友達もやめろってのか?」
こつこつと、少しずつ仲良くなったのにも関わらず、理不尽な要求をされた柊人。苛立つ。
「やれやれ……言葉を変えようか。お前ごときがあの人に近付くな!!」
呆れてものも言えない。
柊人にすればそれほどの発言である。
「いや、俺は今まで通り接するよ。よく分からないけど、あんたごときに俺の生活を指図される筋合いはない」
「そう……か」
それが、柊人にとっての苦痛の始まりだということは、その時はまだ、思ってもいなかった。
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