フランシス・アントワーヌ

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1 「フランツィ、フランツィ」 そう呼ぶのは3つ年上の姉だった。名前はルドヴィカ。 お遊びの内容はよくわかっている。もう17才になり、教育もほぼ終えた…ー花も恥じらうレディというのに、彼女は無邪気にも…人形遊びがお好きなのだ。 「今行きますからね。」 私は人形にされることを承知しながらに、大きく返事をした。 一つ言えることは、私は非常にませた子供だったということだ。 自分が魅力的なことを知っていたし、どうすれば姉が、母が、父親が、喜ぶのかをよく知っていた。 姉は、従順に従い…時折(わざとかどうかはともかく)失敗をして、対処をさせれば喜んでいるのだ。 子供心に、お姫様のような生活に憧れをもっているから、従僕のように接すれば喜ぶ。しかし、生まれもった母性を満足させるためには、いくらかのかわいげがないといけない。 姉に愛されることは、自然と母や父に愛されることに繋がる。 かわいい弟であれば姉は私を悪く言わない。 家庭は私の世界だった。 私の家は市民にしては充分すぎるほどに広大だった。 姉の部屋にいくまでには、割合と歩かなくてはいけず、それがまあ憂鬱だったことを覚えている。 しかし、家庭は私の世界だった。だから、その枠の中では、精一杯よい振る舞いをしていなくてはいけないと思っていた。 …そうしないと、天国にいけないと思っていた。 今考えると、ずいぶんな笑い話であるが、当時の私は本気だった。 「フランツィ、はやく来なさい!」 「待って、お姉さま、」 私はもちろん、走って行ったよ。 怒らせたら面倒だとわかっていたから。 それに、姉がどうしてわざわざ、成熟した自分の顔ではなく、弟の顔に化粧したがるのかもわかっていたから。 姉と私は似ていなかった。 姉は誰に似たのか、少々鷲鼻で、下膨れの輪郭をしており、しかも目がぎょろりとしていた。 シナの文化が流行していたこの時代にとって、姉の顔が美女と遠いことは明らかだった。
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