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「フランツィ、フランツィ」
そう呼ぶのは3つ年上の姉だった。名前はルドヴィカ。
お遊びの内容はよくわかっている。もう17才になり、教育もほぼ終えた…ー花も恥じらうレディというのに、彼女は無邪気にも…人形遊びがお好きなのだ。
「今行きますからね。」
私は人形にされることを承知しながらに、大きく返事をした。
一つ言えることは、私は非常にませた子供だったということだ。
自分が魅力的なことを知っていたし、どうすれば姉が、母が、父親が、喜ぶのかをよく知っていた。
姉は、従順に従い…時折(わざとかどうかはともかく)失敗をして、対処をさせれば喜んでいるのだ。
子供心に、お姫様のような生活に憧れをもっているから、従僕のように接すれば喜ぶ。しかし、生まれもった母性を満足させるためには、いくらかのかわいげがないといけない。
姉に愛されることは、自然と母や父に愛されることに繋がる。
かわいい弟であれば姉は私を悪く言わない。
家庭は私の世界だった。
私の家は市民にしては充分すぎるほどに広大だった。
姉の部屋にいくまでには、割合と歩かなくてはいけず、それがまあ憂鬱だったことを覚えている。
しかし、家庭は私の世界だった。だから、その枠の中では、精一杯よい振る舞いをしていなくてはいけないと思っていた。
…そうしないと、天国にいけないと思っていた。
今考えると、ずいぶんな笑い話であるが、当時の私は本気だった。
「フランツィ、はやく来なさい!」
「待って、お姉さま、」
私はもちろん、走って行ったよ。
怒らせたら面倒だとわかっていたから。
それに、姉がどうしてわざわざ、成熟した自分の顔ではなく、弟の顔に化粧したがるのかもわかっていたから。
姉と私は似ていなかった。
姉は誰に似たのか、少々鷲鼻で、下膨れの輪郭をしており、しかも目がぎょろりとしていた。
シナの文化が流行していたこの時代にとって、姉の顔が美女と遠いことは明らかだった。
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