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パリについてから、タリアン子爵邸を見つけるまでが大変だったよ。
先のルイ14世の起こした数々の戦争と、ルイ15世の色欲のおかげで、フランスは貧しかった。
パリには既に明日のパンに困窮する人々がいくらもおり、アイゼンシュタイン家の豪奢な馬車は、嫌でも目を引いたのだ。
私は、恐ろしかったので、カーテンを開けず、中でじっとしていたよ。
それでも革命はまだ遠かったから良かった。
マリー・アントワネットも、ルイ16世も、まだ少しは期待されていたんだ。
それに、マリー・アントワネットは美しかったからね。画家と床屋、それから仕立て屋には大変人気があったってわけさ。
それで、なんとかタリアン子爵邸に着いた頃には、私は疲弊しきっていた。
大体、パリまで来るのにだって大変な時間がかかるっていうのに、パリについてからも大変な時間がかかるだなんて思ってもみなかったんだ。
私はフランスのコミック・オペラでも観ようかと思っていたが、疲れてそんな場合ではなくなっていたので、すぐにタリアン子爵邸の門を叩いた。
すると、すぐに使用人が姿を現した。
太った女の使用人だった…ヨハネスの乳母はこんな感じだったのだろうか。
私はそんなことを考えながら、彼女に聞いた。
「奥様はご在宅ですか。
私は、こちらのお嬢様、ジョゼフィーヌ・ガブリエラ様が嫁がれたアイゼンシュタイン家の二男にあたる、フランシス・アントワーヌと申します。」
「ああ、ジョゼフィーヌお嬢様のね…ちょっと待ってくださいな。」
使用人は下町訛だった。
ヨーゼファの、家が没落しかけている、というのはどうやら謙遜ではなく本当のようだ。
私は、明るく見えた未来が少し曇っていくような気がした。
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