タリアン夫人のサロンでの日々

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没落しかけている、にしても程度はあるものだ。 活動を自粛する程度ですむのか、自害をきめなくては危険というまでなのか。 まあ、まがりなりにも使用人がいるわけだから、後者はあるまい。 私は気を強く持った。 アイゼンシュタイン家の豪奢を期待しなければいい話だ。 マダム・タリアンはヨーゼファに似ているだろうか。 似ていたら、私はマダム・タリアンと火遊びをしよう。 タリアン子爵は少なくとも3人の子を作ったわけだから、同性愛者ではあるまい。 二人に愛されるのも、二人を愛するのも、もうごめんだ。 そう思った。 ヨーゼファ…そういえば、ヨーゼファはなぜ自分をヨーゼファと呼ばせたのだろう…。 ジョゼフィーヌなら、ヨゼフィーネだってよかったじゃないか?まだドイツ語が完璧でなかったんだな。 私も、いよいよ本当にフランシスになるのか。 ここはフランスであるからして、私は常にフランス語を話さなくてはいけない。 私は、ヨーゼファと同じように、異国に住むのだ。 知る人などひとりもいない、異国に。 そう考えると、ますますマダム・タリアンとの火遊びが心待ちになった。 やがて、先ほどの使用人が、都会的な女性を連れてやって来た。 髪はプーフに結い上げ、大きな羽飾りをつけている。 丸い頬の横では、ダイヤの耳飾りが、細い顎の下ではダイヤの首飾りがきらめいていた。 ドレスは光沢のある薄緑で、靴は銀だった。 私は一瞬で悟った。 この女性がマダム・タリアンだ、と。 マダム・タリアンは見た目30才になるかならないか、というふうだった。 ヨーゼファの可憐さを菫に例えたとき、マダム・タリアンの美しさは、大輪の百合のようだった。 つまりは、まさしくフランス的な女性だったのだ。
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