47人が本棚に入れています
本棚に追加
マダム・タリアンは、速やかに私を広間に案内した。
そこは、アイゼンシュタイン家の、わずかにバロックの香りを残す、豪奢を極めた内装とは違っていた。
銀や、白、パステルカラーを貴重とした上品な部屋、床は木目調で、壁にはブーケ柄のタペストリーがかかっている。
家具類も、白で統一されていた。
マダム・タリアンはその中に溶けるように入っていった。
「メルシー、ルイ、新しい仲間よ。」
私は呆然としていて気づかなかったが、広間には二人、先客がいたようだった。
二人はしずかに私に寄ってきた…
片方は、長身に青い目の美丈夫で、片方は緑の目でややふっくらとした少年だった。
マダム・タリアンは、手短に私を紹介すると、二人に自己紹介をさせた。
それによると、美丈夫のほうは、メルシー・アルジャントー、33歳、コミック座で歌うテノール歌手ということで、少年のほうは、ルイ・シャルル17歳、ボーイソプラノからカストラートに変わって間もない、やはり歌手ということだった。
私は、まずメルシーに握手を求めた。
「よろしく。」
「…よろしく。」
メルシーは微妙な表情をしながら私と握手した。
そして、ルイは、私に頭を下げ、それのみであった。
やがて、マダム・タリアンが私の部屋を手配に出かけると、私はこのパリジャンたちの相手をしなくてはいけなくなった…
このメルシーという男は面倒な奴で、私は今でもこの男が好きになれない。
メルシーは、退屈と、皮肉と、二回りした機知で固められた、典型的なフランス人なんだ。
まあ、私はドイツ人だったから、フランス人に対してそういうイメージを持っていたけども、フランス人もそういう奴ばかりではないよ。一応弁解しておく。
時には、素直で優しい奴もいるし、フランスのご婦人方は、ドイツのご婦人方に比べてずっとエロティックで素敵だ。
つまり…結論を言えば、私とメルシーは友達になれなかったって、そういうわけさ。
最初のコメントを投稿しよう!