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翌朝、目が覚めたころには12時近かった。
私はびっくりして飛び起きたが、背中の痛みと、自分がまさかの全裸だったので、昨晩のあらましを思い出した…
ああ、私は人生の全体を通しての、人間としての尊厳より、一瞬の快楽を取ったのだ。
冷静になってみると、泣くほど恥ずかしかった。
そこにタイミング悪くメルシーが入ってきた。
「おはよう。何を泣いているんだ。そんなに私との別れが寂しいのかね。」
皮肉っぽく笑って言うから、私は思い切り首を横に振ってやった。
「そんなことじゃ、ありません。」
「強がりはいいよ。とにかく、リヴィエール候が1時に迎えにくるからね、早く身支度をすること。」
「え、今日?」
「そうとも。それと、私は今日デートだから、もう行かなくてはいけない。
どうだい、恰好いいだろ。」
メルシーはそう言って自分の身支度を誇った。
すっきりと結われた髪粉で銀に輝く頭、当世風の薄化粧…
バジターブルーのアビ・ア・ラ・フランセーズの下に、私の理性を壊した体が隠れている。
それで、今日はフィアンセを抱こうというのか。
くそ…
私はなんとなくやりきれない気持ちになって、心でメルシーを罵った。
「服を貸してもらえるとありがたいんですけど。
それくらいに、恰好いいのを。」
「そうだね。役立たずに見えない程度のものは必要だね。素っ裸じゃ誰ももらってくれないだろうし。」
メルシーはからから笑って、私にトランクを渡した。
「少しばかり、お下がりを。どうせ売るものだから構わないよ。じゃあ、私は行くね。
Auf wiedersehen.」
私ははっとした。
私は今でもこの男が好きになれない。
天の邪鬼で、プライドが高くて、女泣かせの、同郷。
結婚したら、歌うことも、狩りに行くことも、やめるのだろうか。
私は、砂糖の香りのする自分の体を抱きしめた。
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