プロローグ

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 その日は生憎の雨だった。  ここ数日快晴が続き、人々が梅雨の終わりを予感しかけたときの雨だ。  町はどこか重い空気に包まれている。  僕はというと、満員電車に揺られながら目の前の男性に残された髪の毛の数を数えていた。四十代前半といった所だが、頭部の方は疾うの昔に現役を引退していた。  まるで砂漠に生えたサボテンの生態調査をしている研究員のように、一本一本丁寧に調べあげる。しかし全て数え終わるのにそれほど時間はかからなかった。  僕は彼の後頭部に息を吹き掛けた。一本だけ酷く伸びた髪がゆらゆらと風に乗って靡く。それは電気店で飾られているエアコンについた細長い紙を連想させた。  彼は僕の方を振り返り、怯えた犬のような瞳で此方を見つめてきたが、すぐに前を向き直した。僕は溜め息ついでにもう一度息を吹き掛け、窓の外に視線を戻す。
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