プロローグ

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 電車に揺られていると、段々自分が電車の一部になったような気がしてくる。手すりや座席と同じようにこの電車に備え付けられた部品。ここでは僕の意思なんてものは関係ないのだ。あてもなく宙に浮いて融解。それで終わり。電車は“僕達”とはお構い無しに動き続ける。がたんごとん。  そんな下らないことを考えていると、前方の扉が地上に降り立ったダースベイダーのような音を響かせてゆっくりと開いた。  ぎりぎりで塞き止められていたダムが決壊し、人々がどっと流れ出ていく。僕もその流れに乗せられたまま、いつの間にか無造作に電車から放り出されていた。  どうやら僕は電車の一部などではなかったようだ。少しふくらはぎが痛い。きっと長い間立っていたために、脚が電車の“手すり”みたいになっていたからだろう。  雨は滝のように雨避けのさらしを打ち付けている。ホームは靴の裏に着いた土や塵の混じった雨の匂いに包まれていた。  パチパチとした音に急かされて、人の波がどんどんと押し寄せてくる。僅かに首を動かしてさっき僕が立っていた電車の入口に目を向けると、新たな乗客が我先にと乗り込んでいるところだった。スーパーの詰め放題セールみたいだな、と僕は思った。  そこで意識が途絶える。気づくと駅前に立っていた。どんな風にしてここにいるのかは覚えていない。ただ人の波が僕をここまで運んだということは分かる。よく改札を通れたものだ。そんなことをしたつもりはないが手にはしっかり定期券が握られている。どうやら習慣というのは意識の裏側にびっしりと貼り付いているらしい。  僕は鞄を持たない方の手で傘を差した。
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