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都会は灰色に染まっていた。良く整備されたアスファルトに、隙間なく立ち並ぶビルディング。規則正しく並べられた針葉樹や、大通りを行きかう人や車の姿までもが灰色に染まって見える。それはこの雲のせいかもしれないし、あるいは僕のせいかもしれない。立ち込める霧のような暗雲が、僕の心を覆い尽くしているのだ。
その日は生憎の雨だった。もし今日という日が晴れだったならば僕の気持ちもいささか軽かったかもしれない。でも、それだけのこと。明日雨が降っていても、来週雨が降っていても根本的には何も変わらないのだ。問題だけが山積みにされていく。僕はただ黙ってみていることしか出来ない。それは一種の時限爆弾のようだった。
時計に目をやる。7時58分。いつも通り歩いていけば会社には遅刻せずに済むだろう。余裕があるというほどではないが、コンビニに立ち寄ってサンドウィッチと牛乳を買うくらいの時間はある。だが、朝礼後に到着するのだけは避けなければいけない。仕事モードに突入した人間たちに割って入るというのは、スーツを着たキリギリスが会社に紛れ込むようなものだ。まるで場違い。刺さるような視線というのはまさにああいうのを言うのだろう。
仕方なしに僕は歩き出した。会社には行きたくなかったが、そういうわけにもいかない。もしも僕が現在小学生で、雨が降っているから学校へ行きたくないというのならば話は別だ。もちろん雨が降ったうんぬんなんてのは口実にすぎない。たとえ学校に行きたくない本当の理由は他にあって、それを隠していたとしても、駄々をこねればたいてい何とかなるものだ。実際、僕が小学生のときがそうだったのだから。
そういうわけで僕は会社に行く。代わりに出勤してくれそうなキリギリスを探してみたが、見つからなかったので諦めた。
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