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桜が舞い散っている。
命溢れるこの春を、まるで祝福しているかのように。
……でも、オレにとって、それはツラいだけだった。
アイツに会ってから、もう、何度季節が巡っただろうか?
最後に会ったあの日、桜はまだ蕾だった。
──アナタと、この桜が咲き誇る様を眺めたいものです…。
悲しげに、アイツはそう呟いた。
──なに寝ぼけたことぬかしやがる。一緒に見るって、約束しただろうが。
──そうでしたね。
そう言って微笑んだアイツの顔が、オレを安心させた。
安心させたと同時に、オレを不安にもさせた。
……予感は的中した。次の日、アイツは行方が分からなくなった。
何処へ行ったのか、誰にも見当がつかなかった。もちろん、このオレにも……。
「……どこに行ったんだかな……」
あれからもうすぐ、十年が経つ。未だに手がかりも何もない。
「何か言っていけよ……あのバカ……っ」
……桜吹雪が霞んで見える。オレ、もしかして泣いてんのか?
……もし、居もしない主がいるのだとしたら、どうかお願いだ。
もう一度、もう一度アイツに会わせてほしい……。
「泣かないでください。美人が台無しですよ?」
この話し方……まさか……
「やはり咲き誇っていましたね。美しいです」
間違いなかった。振り返った先にいたのは、十年前に消えたアイツだった。
迷うことなく、オレはアイツの胸へ飛び込んだ。
「今までどこにいたんだよ……心配したじゃねぇか……っ!!」
「おやおや……」
そっと抱き締めてくる腕の温かさに、オレはやっと安心できた。安心して、涙がボロボロとこぼれてきた。
「心配させたようで、すみませんでしたね」
「当たり前だ……このばかっ!!!」
舞い散る桜、零れる涙。その中でオレは、またコイツに会うことができたことを感謝した。
……紛れもない、主に対して。
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