encore.02「産業ロックは永遠に」

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 所狭しとはしゃぎまわる子供達の元気な声と響き渡る館内放送。草野は今ショッピングモールの中央に位置する小さなステージの上に立っているのだ。  ステージの前に数列並べられた白いプラスチックの椅子には、家族サービスに疲れ切ったお父さん達が体を休めていた。  あの頃ではあり得なかっただろうが、この状況も今の草野には当たり前となった。  以前、人気絶頂の頃はこれの数十倍の人の前で演奏する事もあったし、小さなライブハウスで演奏してた頃でさえ、こういう所で演奏するアーティストを馬鹿にしていたものだ。  ……だが、これが現実。  一度は味わった夢のような現実にこうも惨めな姿ですがり付き、もう一度あの場所に立つ僅な希望にかけるのだ。  こうして今日も、草野は手慣れた様子で淡々と一通りセッティングを終えて、ステージ裏に戻っていく。  ステージ裏と言っても、この規模のショッピングセンターのものだ。待機する為の椅子や予備機材を置いているだけで客席から隠れているのかも怪しい。  しかし、草野にとって嫌な事ばかりでもない。 「おはようございます!」  何とも心地好い挨拶。  そう。彼女達が本日、草野がバックバンドを務める三人組のアイドルグループ『リリっくす』。彼女達との仕事は今日が初めてではない。もう十数回になるだろうか。
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