encore.02「産業ロックは永遠に」

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 草野は着替えを終えて丸子と合流した。  仕事の打ち合わせに適当な場所を探したところ、ショッピングセンターの中のフードコートが近くにあったので、そこで話をする事にした。二人はファーストフード店で、お互い飲み物を買って席に着いたところから話は始まる。 「草野さんは、もちろん香田里奈は知っていますよね?」  香田里奈はアイドルに無頓着な草野でも名前は知っているほどの有名人だ。この業界にいるのだから尚更だ。彼女のテレビを見る限りでの印象は長身細身で容姿端麗。しかし性格は我が儘なお嬢様といったところだろうか。 「今までモデルやタレント業が主だった香田里奈が今度歌手デビューします。そのデビュー曲のサポートギタリストを草野さんに務めていただくというわけです」  なるほど。普通のサポートギタリストなら、この大きな仕事に大興奮だろう。しかし、大きな疑問がある。 「でも、なんで俺なんだ?」  ギターのテクニックなら、他のギタリストの方が断然上だろう。何せロックバンド出身の草野だ。正確さよりもフィーリングに定評がある。 「僕もそう思いました」 「そう思ったのかよ」  本当にマネージャーかと疑う程に愚弄した発言だ。こいつが日本の政治家にでもなれば数々の問題発言に即辞任に追い込まれるだろう。 「冗談ですよ! ……ハハハ。香田里奈って少しお高い女ってイメージないですか? 事務所はそのイメージにロックギタリストを足すことで、より格好良さを売りにしたいみたいです。ですので、メインはあくまで香田里奈ですが、草野さんにも少し前に出る機会があるという事です」
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