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時刻は午後十一時。男は狭いホテルの一室にいた。
男はする事も特に無かったが、眠れるような気配はなかった。しかし、明日の仕事の為、ただ時間のみを理由として眠ろうとベッドに横たわり、黄ばんだホテルの天井を仰いでいた。
この見るからに“……”なホテルの需要というのはどんなに文明が発達した時代にも尽きないものだ。つまりは貧富の底辺は不変で、幅のみが時が経つにつれて深みを増していくだけの事なのだろう。ただその事が眠れない理由でも無いのは確かだ。
男はこういう時――つまり、眠れない時は決まって、何もできなかった自分の事を考え後悔を繰り返して過ごした。
壁にある小さな窓から外が少しだけ見える。そこから見えるのも、もう当たり前になったいつもの真っ暗な世界。
思い返せば、世界が暗闇に包まれたあの日からだった……男が眠れなくなったのは。特に今日はいつも以上に眠れる気がしない。
男は少し考えた後、体を起こし、何かをして気を紛らわす事にした。
取りあえず思いついたのはテレビだった。何というかこのテレビという物が発明されてから長年に渡り人の遺伝子に刻みつけられた性だろうか。
男は小さな窓から漏れる向かいのビルの渡り廊下の灯りだけを頼りにテレビのリモコンを手にとり、電源ボタンを押した。
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